この父その子


真田信弘霊屋

真田信弘は五十一歳になるが、まだ当主ではない。
それは、養父幸道が老体にむち打って藩主の座についているからである。
(幸道は二歳で家督を継いだ三代目当主。「錯乱」にて描かれたあの幼い後継ぎである。)
このため妻子もあり五十を超えた信弘が当主になれないのである。
が、しかし当の本人は今更跡を継ぐ気もあまりない。
藩の財政が苦しくて倹約生活をしているが、お稽古ごとの月謝さえままならない。
ある時、町人の三倉屋徳兵衛が「たまには息抜きでも」と妙という遊女を紹介する。
お互いに惹かれあった二人は幾度となく逢い引きを繰り返すようになり、妙は信弘の子を身ごもる。 それを契機に二人の間は引き裂かれ、二度と会うことはなくなった。
時は流れ、養父幸道が病歿し五十八歳で信弘は藩主になる。
藩主になって七年目のこと。
三倉屋徳兵衛がある浪人を召し抱えてもらいたいと申し入れる。 その浪人の名は大沢源七郎。
もちろん、信弘は三倉屋への恩もあり、その浪人を召し抱える。 その浪人は何者なのか?
そして、妙の身ごもった子どもはその後どうなったのか?
謎は闇から闇へと消え去ってゆく。

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信弘のことを、ちょっと切ない思いと共に同情するのは、その苦悩と諦めと情熱がなんとなく現実的で身につまされるから。
この霊屋を眺めたとき、ちゃんと霊屋まで作ってもらっていたんだなぁと嬉しくなる。
信之に比べればちょっと質素だけど、そこがまた信弘らしくてほほえましかったりする。

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