お菓子の家

第二章：お菓子の家

【縁日のマリオネット】
その夜のことです。
洋館の一室に集まり、みんなで話をしていると、山本がこんなことを言い始めました。

山本「縁日でよくやっている紙の人形があるだろ。おじさんが飛べ！とかお座り！とかいうと、そのとおりにするやつ。あれ、どうなっているかわからないんだよ」
岡田「ああ、それね、知っているよ」
山本「え、知ってるの？教えて教えて」
岡田「それはね、見物客の中にパートナーがいるんだよ。その人がマリオネットの糸を持っていて、おじさんの言うとおりにひっぱるのさ。買った人にはタネを教えてあげるんだけど、２人でしかできないから、大抵がっかりするんだな」
山本「え、うそ！僕が見たときは糸なんかなかったよ。最初に糸はありません、て、おじさんが言うんだから。」

それを聞いて、岡田はしばらく考え込みました。そして、意を決したように口を開きました。
岡田「そうなんだ、実はそこに恐ろしい秘密があるんだ」
美貴「え～、怖い。怖い話は苦手」
山本「大丈夫大丈夫。ねえ、教えて教えて。いいだろいいだろ」
山本は興奮してきたようです。言葉を繰り返す回数が増えてきました。
岡田「お客さんには、糸のついたマリオネットを売るんだけど、縁日でみんなに見せているのは糸がついていないんだ。あの人形には人間の魂が閉じこめられているんだよ」
山本「人間の魂？」
岡田「そう、何でも人の心を操り、しまいには魂を抜きだして紙人形に閉じこめてしまう方法を知っている魔女がいるんだよ」
あまりの話に、山本は固唾を飲んで聞いています。
直子「その魔女って、何処にいるの？」
岡田「一説によると、ここ那須の森に住んでいるって言われている」
直子「ホント？そんな話、私、聞いたことない！」
岡田「その証拠に、心を操られ、自分の意志ではどうしようもなくなった人は、一様にこう言うんだ。」
美貴「何て言うの？」
岡田「ナス、すべ、なし」
山本「・・・ナス、すべ、なし」

こうして、夜は更けていきました。
楽しそうにみんなが話す中、私はずっと考えていました。
よし、那須の森に住むという魔女に会いに行こう。そして人の心を操る方法を聞いてみよう、と。
私は岡田の話を聞いて、魂を抜き取られてしまう怖さを忘れさせる、どうしようもないほどの好奇心でいっぱいになってしまったのでした。

まえ　　第二章おわり