碁盤の首


真田信之霊屋

馬場主水は、真田家譜代の武士である。
ある日、主水は小川で足を洗っている農家の娘を見て欲情し、これを無理矢理に辱めた。
その娘は汚された我が身を哀しみ自殺した。
この事件を地元の庄屋が伊豆守信之に訴え出た。
信之は「すぐに主水を捕らえ、縛り所へ押し込めておけ」と家老に命じた。
主水は牢屋に押し込められたことを不満に思い暴れわめきちらす。
ただ、信之はしばらく謹慎させてほとぼりが冷めた頃に釈放してやろうと思っていた。
ところがその気持ちを解らぬ主水は脱獄して、投獄の腹いせにとんでもない行動に出る。
「信之は、大坂の陣で豊臣側の幸村に内通していた」という理由なき事を幕府に訴え出たのだ。
幕府は真田家江戸屋敷の老中を呼出し尋問するが、老中の応対は堂々としていて少しの渋滞もなく、主水逃亡のいきさつを余すところ無く話し怒りをぶちまけた。
信之の冷静な行動と政治力には一分の隙もなく、幕府も手を引くより仕方なかった。
こうして主水は逃亡する身となった。
信之も許してやろうと思っていたが、何をしでかすかわからない人間を放っておく訳にもいかない。
腕利きの刺客を四人伊勢参宮の名目で江戸を出発させ主水の後を追わせた。
ところで、主水には小川治郎右衛門という碁敵がいる。
負けず嫌いの主水は一たん負けると、その負けを取り返すまでは決して後に引かない。
ところが主水は今、治郎右衛門に一つ負け越しているのだ。
だから「主水はきっと此処に来る。」という確信が治郎右衛門にはあった。

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信之は親兄弟を殺された徳川家に仕えている。
徳川家としてはその信之に対して全幅の信頼をおきかねるのは当然と言える。
そんな中、真田家存続の為冷静沈着に藩を律してきた信之はかなり肝の据わった人間だと思う。
真田十勇士で有名な真田幸村にスポットライトが当たることが多い。
信之にはそんな派手さはないが、巨木のように根の座った風格があり、人々から尊敬されていた。
そのことは松代の町を歩いてひしひしと感じる。

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