錯乱


豆州庵

真田家の馬廻をつとめている堀平五郎は、平凡で目立たぬ男だったが人付き合いは無類であった。 城下の誰からも好意の目で見られている。 しかし、実のところは酒井家の密偵なのだ。
酒井忠清は「下馬将軍」と称されて幕閣に権勢をふるう老中筆頭である。
ある日、二代藩主真田信政が急逝する。
信政の子右衛門佐は、まだ二歳の幼児に過ぎない。
藩主の死後、信政の甥である信利が次代藩主を狙って牙を磨ぎにかかることは、心きいた家老たちの念頭にまず浮かぶことであった。
やっかいなことに、この信利は暴君型である上に酒井家とは姻戚関係にある。
そこで、重臣達は隠居した信之を頼りに右衛門佐を次代藩主に押し立てようと奮闘する。
「右衛門佐は信政の子ではない」という証拠がないかと探りを入れる酒井家。
堀平五郎は人なつっこい笑いを浮かべながらも信之の尻尾をつかむべく虎視眈々と隙を狙う。
ある時、堀平五郎は信之に呼ばれる。
信之は何を思ったか「右衛門佐はな、実は信政の子ではない。」と堀平五郎に告白するのだ。
心の中で高笑いする堀平五郎。果たして真田家の運命やいかに。
予想もしない最後のどんでん返し。
信之の凄さと緻密さに感動を覚える。

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真田信之は伊豆守とか豆州殿とか呼ばれていた。
徳川家光から「豆州は天下の飾りだから隠退はまだ早い」とまで言わせた真田信之。
松代にもその名を残すものは幾つかある。
ここ「豆州庵」もそのひとつ。
あと「豆州殿」というお菓子(栗と豆のお菓子)もある。

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